ペレーツィスの新作
7月にこんなことがあった。所用でペレーツィス氏に電話して近況などをきいたら、「ピアノのための30のプレリュード」という作品をこの冬に発表し、同僚であるピアニストで音楽アカデミーの教授、カルンツィエムス氏により初演され、DVDに編集されたというのだ。冬は所用で日本にいなければならなかったので仕方ないが、生で聴けなかったのは非常に残念である。
私としては(自分は弾けないけれども)楽譜も見たいということで、DVDと楽譜のコピーを頂くことができた。
この曲名にはどうしてもひっかかるものがあった。バッハの「平均律クラビーア曲集」、ショパンやショスタコービッチの24のプレリュード、という曲名だったと思うが、調性が24あるので24曲あるわけだ。しかし、それに対してペレーツィスの新作は30。昔彼は、「ハイドンの第13ロンドン交響曲」という作品を書いたことがある。数字にまつわるなぞが多く散りばめられているのだ。
その日、DVDを家に持って帰り、早速楽譜を開いて聴いた。これはもう、傑作としか言いようがない。上に書いた先駆者らを意識しているのではあろうが、独自の技巧が凝らされている。聴くのも面白いが、ピアニストにとってこれは相当、弾きごたえがあるのではないだろうか。
DVDは音楽アカデミーのホールで公開演奏されたもののライブ録画である。アンコールとして「古い日記」という曲も収録されており、演奏時間はアンコールを含め1時間26分と、長い。カメラワークは単調であるがまあ我慢できる程度であり、前後に映画のように字幕がスクロールしてかっこいい。しかし、今のところ発売する予定はないという。もったいない話である。
さて、なぜ30曲あるのか。夢中になって何度も聴いたのだが、楽譜を眺めていてひとつ気づいたことは、最初にいきなりシャープ7つの調で始まり、だんだん減っていって折り返し点の15,16曲目で調号がなくなり、その後はフラットがつき、だんだん増えていくということだけである。その構成力も見事だと思うが、それ以上深いところまではまだ解明していない。

3 Comments:
こんにちは。
いつも興味深いラトヴィアやバルト地域のお話をどうもありがとうございます。
ペレーツィス氏と交流があるなんて、本当にうらやましい限りです。
先日、クレメラータバルティカによるペレーツィス作品集(Revelation, Nevertheless, etc.)のCDを買い、ほとんど毎日聴いています。
単純に美しいだけでなく、かと言って、自閉的にならずに、独自の世界をポジティブなエネルギーで描き出す才能にただただ圧倒されています。
あるサイトでは、「北欧のマイケル・ナイマン」というような表現もされていますが、ペレーツィスの素朴なあたたかさや真摯なメッセージはナイマンとは比べ物にならないと個人的に感じています。
ペレーツィス氏の新曲、早く聴いてみたいです。CD化されることを心から願っています。
ところで、ペレーツィスの楽譜はラトヴィアでしか手に入らないのでしょうか?
ぴらーしゅ様
コメントをありがとうございます。
長らくご無沙汰してしまい申し訳ありません。もうどなたもいらっしゃらないかと思っていました(苦笑)。
以前ご本人から、「私の作品だけのCDというのは、商業ベースに乗らないからどこのレーベルも二の足を踏んでいるのです」と言われ、残念に思っていました。国際的な知名度が上がってきたということでしょうか。
ペレーツィス作品の楽譜ですが、むしろ国外で出ているものが多いので、そちらから取り寄せるといいのではないでしょうか。これについては後日紹介することにします。
いえいえ、こちらこそ、迅速なご返信どうもありがとうございます。
更新が遅いなんて感じていませんよ。
全然気になさらないで大丈夫です。
内容のうすいことを毎日書き続けるより、自分が本当に心動かされたことを丁寧に書くほうが数百倍価値のあることだと思います。
それにしてもペレーツィス氏は本当に謙虚な方なのですね。
「商業ベースに乗らない」と感じているのは、おそらくプロデューサーや商業側の人たちの怠慢のせいであって、少なくとも、ペレーツィス氏の音楽には全く非がありません、と断言できます。
ペレーツィス氏はクレーメルと同期の音楽仲間ということもあり、クレーメルやクレメラータのおかげで演奏機会が増えているように見えますが、もっとたくさんの国でいろいろな演奏家が演奏できるようになればよいなぁと思っています。
先日、Musica Balticaのサイトでペレーツィス氏の楽譜を検索してみたところ、思っていたよりもたくさん出版されていたことを知りました。
自分はバイオリンとビオラを弾くので、できれば、ペレーツィス氏の作品の中で無伴奏やピアノ付きソナタや弦楽四重奏の楽譜があればよいなぁとひそかな期待を抱いています。
あと、「Nevertheless」の録音で、私はクレーメルの昔の録音も持っているのですが、新しい録音のほうが格段にすばらしい演奏になっていますね。クレーメルの誕生プレゼントとして献呈された作品ですが、彼が日々作品と向き合い、音楽を育てていたことがわかります。
新しい録音では本当にリアルな表現、人間の声のような音色を意識して弾いていますね。
ピアノが最後に明るさを取り戻す場面ではいつも涙がこみ上げてきます。
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