ラトビア便り

ラトビア在住の日本人男性が、この国の文化を紹介。音楽情報などを通じてその魅力を探っていきます。

2010年4月18日

パフォーマンス+音楽+俳句

 3月中旬からずっと投稿していなかったので、3月末に書きかけていたものも今回投稿することにする。当時、氷も雪もほとんど解け、日も長くなって、夏時間が導入された。しかし、たいへんなのは雪解け水であった。大量に積もった雪や氷が、急激な気温の上昇で一気に解けたからである。
 南部のイェルガワという町では洪水になり、もっと南の水力発電所のあるところでは、川の氷を爆薬で粉砕した。ラトビアでは歴史上初めてのことであるそうな。魚など生態系への影響も心配だし、だいいちいくらかかったんだろうと思ってしまう。
 さて、ラトビアで最も有名な(現地在住の)日本人といえば、ラトビア国立オペラ座に所属するバレリーナの三宅佑佳さんであろう。先日(4月半ば)、スーパーで買い物をしていたら、三宅さんの写真が表紙に大きく写っている雑誌を見つけた。日本で言う女性誌だろうか。4ページにわたるインタビューで、内容は一般女性向けのものである。バレリーナとしての日常生活が中心だが、日本人とラトビアの人々を比較して「日本人は外見も行動もみんなそっくりだが、ここの人はみんな違う」と語っているのがユーモラスで楽しい。こういう形で日本人の活躍が紹介されるのは良いことである。
 今回の本題はそのオペラ座での演奏会である。17日、ラトビアラジオのサンドラさんから電話があった。「今日の夕方7時半から、俳句を取り入れた音楽パフォーマンスがあるんですが行きませんか?招待券を置いておきますよ」と誘いを受けた。こういう世界からしばらく遠ざかっていたので、うれしい限りである。パフォーマンスの名称は「軽さ」とでも訳したらよいのだろうか、「エレキでアコースティックな物語」という副題がついている。一体どっちなんだ、と突っ込みを入れたくなる。会場はオペラ座の新ホールで、オペラ座の脇に増築された真新しい建物で、入り口も切符売り場も別である。外観はちょっとバブル期の?ギラギラした感じがするが、内部は小劇場の趣きがあって良い。開演前、すでにミュージシャンの座るいすが並べられ、奥の壁にはスクリーンが吊るされていた。
 バンドの編成はコントラバス、エレキバイオリン、フルート、サクソフォーン、アンサンブル"Altera veritas"、DJである。全体の企画や作曲もコントラバスを演奏したペーテルソンスがてがけ、非常に中身の濃いものであった。
 プログラムには、パフォーマンスのモチーフとなっている全ての日本の俳句のラトビア語訳が掲載されているが、これはおそらく、ソ連時代から俳句の翻訳アンソロジーで有名な故エグリーテ女史のものであろう。それらの俳句が要所要所で後ろのスクリーンに映し出され、録音でその朗読が流れた。
 さて、パフォーマンスはどんなものだったかというと、楽団の席で楽器も何も手にせず座っていた若い男が、音楽が始まると楽団員の間を徘徊し始める。何か人生の悩みを抱えているようだ。舞台の客席から見て、楽団は右側に配置され、左側は空っぽである。男はその左側の空間で踊りだす。そのうち、舞台袖にあるダンボールの山から本を取り出し、投げたりそれらの間でのた打ち回ったりする。突然、尺八のような音が聞こえてきたので楽団の方にちらりと視線を移したら、フルート奏者がアルト・リコーダー(小中学校で習った、あの縦笛です)で尺八のような音を出していた。芸が細かい。スクリーンに映し出される風景も、時々日本の白砂青松の海岸のような情景が映し出され、日本的なものを取り入れようと試みているのがわかる。
 言葉で説明するのは難しいが、非常に面白いパフォーマンスであった。有名なスターが出演するショー的なコンサートよりも、こういう企画の方が手作りの味わいがあってそれでいて、芸術的なレベルは高い。さすがだと感心した。
 このパフォーマンスの上演は4月16日、17日、30日の3回を予定しているが、これだけではもったいない。もっとやればいいのに。