アイスランド前衛音楽コンサート
木曜のペレーツィス還暦コンサートに出演していた、国立交響楽団のバイオリニストで、私の友人ライモンツ君は、今開催中の現代音楽フェスティバル「アレーナ」の実行委員もしている。プロ・オーケストラの団員がそういうことをするなんて、面白いと思うが、日本でもそういうことはあるのだろうか。還暦コンサートの後、音楽アカデミーのホワイエでライモンツ君に会ったとき、「招待券あるから聴きに来てよ」と言われ、行ってみた。
土曜日20時開演の、標記のコンサートは、現代アイスランドの作曲家たちの作品と、ラトビアの若手作曲家の作品を演奏するというもので、アイスランドものなんてまず聴く機会はないだろうから興味はあったが、元来現代音楽は苦手である。ちょっと迷ったが、好奇心が勝って出かけることにした。会場は大ギルド。先日書いたとおり、改修工事がすんだばかりだが、入口を入るとすぐ地下に下りて、また昇るという妙な構造は変わっていない。切符売場やトイレ、コート預り所もその地下にある。切符売場に行くと、ライモンツ君が招待券を何枚も持って立っていて、私にも1枚くれた。
さすがに土曜のこんな遅い時間、しかも前衛音楽ということで、お客さんはそれほど多くなかった。私の席のすぐ後ろの列には作曲家のバスクス氏が座っていた。彼とはいろいろな演奏会で顔を合わせるのである。しかも、いつも近くの席だ。世界のバスクス(ちなみに、小惑星の一つに彼の名が登録された!)は、なかなか気さくな人で、いつも話がはずむ。
さて、私はアイスランド語は全くできないし、作曲家の名前も全く知らないので、カタカナ表記には自信がないが、前半がマグヌス・リンドベルグの「コヨーテ・ブルース」、ヘクル・トウマソンの「グドルンの歌」、アトリ=ヘイミル・スベインソンの「アイスランド風ラップ」、後半がアンドリス・ゼニーティスの「e.e.カミングスの7つのマドリガル」、スノッリ=シグフス・ビルギソンの「ピアノ協奏曲第2番」というプログラムで、後半のゼニーティスがラトビア人であるほかは、すべてアイスランドの作曲家である。ゼニーティスの「マドリガル」を歌ったのがラトビア人のメゾソプラノであった他は、全員アイスランド人の演奏家たちである。
全体的に、前衛音楽ではあるが聴きやすく、旋律や叙情性もそこかしこに漂っていて、非常に面白かった。愉快だったのはスベインソンの「アイスランド風ラップ」で、ラッパーがいるのではなく、アンサンブルのメンバーがラップをするのである。指揮者も客席の方を向いて、何やら語りかける場面もあった。みんなノリノリなのだが、顔の表情は一貫してまじめで、それがまた楽しませてくれるのであった。後半のピアノ協奏曲は大変濃密な内容の作品で、独奏者は非常に若い長身の男性であるが、研ぎ澄まされた集中力でこの作品をまとめあげた。
彼らにはぜひ日本公演も行って、アイスランド音楽を紹介してもらいたいものだ(もし、もうしていたらすみません。情報に疎いもので)。それだけの価値はある。