ラトビア便り

ラトビア在住の日本人男性が、この国の文化を紹介。音楽情報などを通じてその魅力を探っていきます。

2009年8月29日

ペレーツィスのアルゼンチン・タンゴ

 このブログでどういう形で紹介しようか、迷っていたことがあったのだが、コメントをいただいたのをきっかけに書いてみようと思う。すなわち、待ちに待ったペレーツィスの作品だけを集めたCDがついに発売されたのである。演奏はクレーメル率いるバルト三国の若手合奏団、クレメラータ、バルティカである。
 内容は、「Revelation(啓示)」、バイオリンとピアノ、室内楽のための協奏曲「それにもかかわらず(Nevertheless)」、「アストル・ピアソラ、オスカー・ストロックと私、ブエナ・リーガ」、「最後の歌」である。最初の2曲は私にはすっかり馴染みであるが、"Relevation"は日本では聴く機会がなかっただろうから、朗報である。カウンターテナー独唱(若手男性ボーカル・グループCOSMOSのメンバー。COSMOSは日本で公演したことがあるはず)が光る逸品。「それにもかかわらず」のバイオリン独奏は以前の録音と同じクレーメルだが、新録音で解釈もかなり変わっており、聴き比べると楽しい。あとの2曲は私も初めて聴いた。「ピアソラ…」はペレーツィスがアルゼンチンタンゴを作るとこうなる、という感じで面白い。
 収録曲をすでに知っている、という人も、このCDは買うべきである。ペレーツィスを知らない人も、まずこのCDから入ってほしい。ジャケットのデザインもいい感じでおすすめである。日本ではどこで買えるのか分からないが、タワーレコードのサイトで通販していることが分かった。
http://search.tower.jp/results.php?TYPE=ALL&STR=pelecis&GOODS_SORT_CD=101&SEARCH_GENRE=ALL&BUTTON=DUMMY&MT=&submit.x=0&submit.y=0

2009年8月24日

ペレーツィスの新作

 7月にこんなことがあった。所用でペレーツィス氏に電話して近況などをきいたら、「ピアノのための30のプレリュード」という作品をこの冬に発表し、同僚であるピアニストで音楽アカデミーの教授、カルンツィエムス氏により初演され、DVDに編集されたというのだ。冬は所用で日本にいなければならなかったので仕方ないが、生で聴けなかったのは非常に残念である。
 私としては(自分は弾けないけれども)楽譜も見たいということで、DVDと楽譜のコピーを頂くことができた。
 この曲名にはどうしてもひっかかるものがあった。バッハの「平均律クラビーア曲集」、ショパンやショスタコービッチの24のプレリュード、という曲名だったと思うが、調性が24あるので24曲あるわけだ。しかし、それに対してペレーツィスの新作は30。昔彼は、「ハイドンの第13ロンドン交響曲」という作品を書いたことがある。数字にまつわるなぞが多く散りばめられているのだ。
 その日、DVDを家に持って帰り、早速楽譜を開いて聴いた。これはもう、傑作としか言いようがない。上に書いた先駆者らを意識しているのではあろうが、独自の技巧が凝らされている。聴くのも面白いが、ピアニストにとってこれは相当、弾きごたえがあるのではないだろうか。
 DVDは音楽アカデミーのホールで公開演奏されたもののライブ録画である。アンコールとして「古い日記」という曲も収録されており、演奏時間はアンコールを含め1時間26分と、長い。カメラワークは単調であるがまあ我慢できる程度であり、前後に映画のように字幕がスクロールしてかっこいい。しかし、今のところ発売する予定はないという。もったいない話である。
 さて、なぜ30曲あるのか。夢中になって何度も聴いたのだが、楽譜を眺めていてひとつ気づいたことは、最初にいきなりシャープ7つの調で始まり、だんだん減っていって折り返し点の15,16曲目で調号がなくなり、その後はフラットがつき、だんだん増えていくということだけである。その構成力も見事だと思うが、それ以上深いところまではまだ解明していない。

2009年8月22日

ラトビア音楽コンサート

 3カ月ほど更新をサボってしまった。私はずっとラトビアにいて、過ごしやすい夏を楽しんでいたが、日本もこの夏はそれほど暑くないと聞いている。私はあまり泳がないので気にしないが、今年の7月は週末に天気が悪くなるというめぐり合わせの悪さで、現地人は大いに不満なのである。
 8月前半に1週間ほどギリシャを旅行した。アテネなどは35度を越える暑さだが意外と過ごしやすく、内陸の山岳地帯へ行ってみたら急に雨が降って20度以下になってしまったのには少し驚いた。ラトビアに戻ってみると、もう秋の気配である。
 夏が終わってしまうのは残念だが、演奏会シーズンの再開でもある。オルガンで有名なリーガ大聖堂(ドーム)は夏の間も定期的に演奏会を開いているが、21日(金)にはラトビアの作曲家の作品ばかりの演奏会があるので久しぶりに足を運んだ。
 プログラムはオルガンとフルートのための作品で組まれており、作曲家はさまざまな時代のラトビア人であるが、バスクスを別にすれば国際的にはあまり有名でない地味な人が多かった。
冒頭にアルフレーツ・カルニンシュの「わが生まれし国の賛歌」。もとはピアノ組曲の最終曲で、デクスニスによりオルガン編曲されたのだが、これが成功であったかは少々疑問である。あまり印象に残らなかった。2曲目のパバサルスという作曲家は初耳だが、ほぼ20世紀の初めから終わりまでを生きた長命の人だそうである。1954年にロンドンに移住し、そこで亡くなった。この日演奏された「インテルメッツォ」は好もしい作品。
 続いてカルソンスという老作曲家の「パイプ」。劇のための音楽を作曲家自らオルガン用に編曲したものだそうである。再びパバサルスのフルート独奏のための作品「アレグロ・ビーボ・スケルツァンド」より第3楽章。いずれも良い作品だが、後者は全曲聴けなかったのが残念であった。そしてゼムザリスの「野原」(英語ならFieldとでもなろうが、どう訳したらよいだろうか)。これは日本にいたころCDで聴いたことがある。曲想も懐かしいが、個人的にはそういうメディアを通じてラトビア音楽に親しんだ時代のことが思い出されて、二重に懐かしい。ちなみに、この人の奥さんは音楽学者でかの「クレメラータ・バルティカ」の団長である。
 今度はフルート独奏、バスクスの「鳥のいる風景」である。以前このブログで書いたと思うが、幾つもの音を同時に出すという難しいテクニックを要する作品である。この日フルートを担当したクレンベルガという女性奏者はかなりの腕前の持ち主。続いてゼムザリスの「フルートのための田園の夏」も劇音楽からの編曲。
 続いてイェルマクスの作品が2曲、民族音楽を題材にしたオルガン作品「日が沈む」(民謡の言語というのは難しく、これもうまく訳せないので後日変えるかも)、フルートのための「夜の旋律」。最後にアルフレーツ・カルニンシュの「ファンタジー ト長調」で演奏会は締めくくられた。
 ラトビア音楽、それも地味なものばかりを集めた、おおよそ商業主義とは程遠い企画で、すばらしいものであった。大聖堂の演奏会は他のホールと比べ外国人のお客が多く(だからプログラムは必ずラトビア語と英語)、この日は日本人のツアー客が大勢来ていたが、この演奏会に合わせてツアーが組まれたわけではなくて、偶然であったわけで、彼らは非常に運が良かったと思う。こういう演奏会こそ、日本人が足を運んで聴く機会がもっと増えればよいのだが。