ペレーツィスのコンサート(補足:イワノウス100周年余滴)
私が90年代後半から追いかけている、ラトビアの作曲家ペレーツィスは、どうもここ最近本国で大ブレイクしているようである。なんと、今週だけで彼の作品が二つ演奏された。
11月15日は、彼の「ラトビア・レクイエム」の世界初演。少し前に書いたように、彼は正教徒だが、初演が行なわれたリーガ大聖堂(ドーム)にこの作品を捧げているというのが面白い。編成は歌手のソリストが4名、合唱団、オルガン、器楽のソリストが5, 6人いたと思う。14曲からなり約1時間20分の大作である。
はっきりいって、これは大傑作である。周りの人も感激していたし、終わったときの会場全体の雰囲気はただならぬものがあった。私はこの大聖堂で数え切れないほど演奏会を聴いているが、こんな雰囲気に包まれたことは、まずなかったといって良い。ラトビア音楽史にその名を残す傑作となると、私は自信を持って言える。
11月18日(土)、ラトビアの独立記念行事の一環として、ラトビア大学講堂で催されたコンサートでは、世界的なバイオリニスト、ギドン・クレーメルの指導の下、バルト三国の若手弦楽器奏者たちにより結成された、クレメラータ・バルティカが、ピアニストなどと共演し、さまざまな作曲家の作品が演奏された。シュニトケ、チャイコフスキー、マスネなど。独立記念コンサートなのに、ロシアものもやるというのが面白い。音楽は音楽として純粋に楽しむという姿勢なのだろう。ラトビアの作曲家の作品は、現代ものがカルルソンス(音楽院学長)、プラキディス、古い作曲家ではヤーニス・メディンシュで、最後を飾ったのがペレーツィス「Revelation(啓示)」であった。リーガでは初演となる。既に、スイスのバーゼルとラトビア中部のリゾート地、スィグルダで演奏されている。
さきの「ラトビア・レクイエム」も含め内省的な作風のペレーツィス作品の中には、時として底抜けに明るい軽快なテンポの楽章が挟み込まれていたり、それだけで1つの短い作品をなしていたりすることがある。この『啓示』もそういう傾向の曲だが、編成も変わっていて、弦楽合奏にピアノ連弾、カウンターテナーというのだろうか、高音域の男声ソロ、トランペットソロ、である。彼の作品には編成の変わったものが多い。音楽学者の遊び心なのだろうか、とも思えるし、同時に緻密に計算されていて作りこまれているのも感じられる。この曲も私は気に入ってしまったし、終わったときの聴衆たちの「ブラボー」も凄まじかった。文化大臣や音楽界の重鎮が多数出席しての国家行事であったのに、ほとんど怒号にも似たブラボーの嵐で、大いに盛り上がり幕を閉じたのである。その中で、引っ込み思案なペレーツィス氏は前に出てきてそれに応えるとき、本当に極まり悪そうだった。
なお、補足だが、独立回復記念日のイベントとして、10月に取り上げたイワノウスの管弦楽コンサートも行なわれた。そこでは、私も知らなかったが、彼の作風には一見ふさわしからぬ「タンゴ」が演奏された。司会者が「実はイワノウスも『タンゴ』を書いているのですよ」と言っていた。ラトビア音楽を愛好するもの、このことが何を意味するのか知らないといけない。1957年生まれの今非常に油の乗っている作曲家、アルトゥルス・マスカツが、「タンゴ」という作品を発表、好評を博したのである。私はマスカツにも非常に関心を持っていて、機会があれば日本で紹介したいと思っている。