私がブログで報告しているラトビアの音楽情報は、クラシックと民族音楽に分けることができるだろう。両方をいっぺんに楽しめる演奏会があったら、なかなか乙なものだと思うのだが、ありそうでめったにない。それが1月23日、「黒頭ギルド」であった。これはラトビア語ではMelngalvju nams, 「黒い頭(の人々)の家」という意味である。誰の頭が黒かったかというと、ローマ帝国時代の北アフリカ出身の殉教者の伝説にちなむもので、ラトビアと直接関係あるわけではないようだ。現在の建物は1999年に再建されたものである。
今回の演奏会の出演者はラトビア・ラジオ合唱団、国立室内合奏団シンフォニエッタ・リーガ、伝統歌謡グループ「サウツェーヤス」(過去のブログ参照)である。さらにプログラムの表紙を見ると、民族楽器クァクレの独奏を音楽アカデミーの学生、ライマ・ヤンソネ嬢が担当する他、オーボエ独奏の(シンフォニエッタ・リーガの指揮者でもある)ノルムンツ・シュネー氏、さらにクラリネット奏者グンティス・クズマの名がある。この陣容で一体、何を演奏するのか。
表題のとおり、このコンサートはユーロ・ラジオのチクルスの一環として、東欧やドイツを中心に10数カ国で生中継され、ラトビア・ラジオの名司会者、オレスツさんが解説を務めていた。日本の公共放送もこういう企画に参加すれば面白いのに、と思う。
コンサートは休憩がなかった。それは別にかまわないのだが、もしこれが、テレビ・ラジオの中継で間があくことのないように配慮して休憩を入れなかったのだとしたら、それはいかがなものかと思う。日本なら、休憩時間に別の音楽や映像を流すだろう。
第一部は手堅い作風のイマンツ・ゼムザリスの「独奏クラリネットのための声」に始まり、続いて「サウツェーヤス」による、彼女らの得意とするラトビア東部地方のポリフォニー合唱曲を2曲、そしてラトビア・ラジオ合唱団により、音楽学者でもあるパウルス・ダンビスの「混声合唱のための海の歌」が演奏された。「海の歌」は1970年代の作曲だというが、実に自由闊達かつ雄渾な作品で、また技術的にはかなり難しいものと思われた。これは3曲からなる。
その次は、クァクレ独奏により、リーブとラトビアの民族舞踊の曲が奏でられ、1978年生まれの若手ゼニーティスの混声合唱のための「太陽」(これはラトビアとリトワニアの民謡をモチーフにしている。ゼニーティスはリトワニアで音楽教育を受けたそうだ)、再びサウツェーヤスが登場して、今度はラトビア中南部の民謡を3曲歌い、最後は、以前このブログで「諧謔の作曲家」として紹介したプラキディスの「2本のオーボエと弦楽器のための協奏曲」で締めくくられた。
今回も印象批評はやめよう。やはりラジオで聴けるのである。
http://www.latvijasradio.lv/program/2008-02/20080204_3.htm
これは中継ではない。再放送である。21:05のところをクリックしていただきたい。
12月以降あまり演奏会に行っていないので(私としてはこれでも行っていない方である)、多くの音楽関係者と久々の邂逅を楽しんだ。ラトビア・ラジオの司会者の一人、グンダ・バイボデさん、作曲家のプーツェ氏(「フクロウ民俗オーケストラ」のところで紹介済み)、等々。プーツェ氏は、オーボエ奏者のシュネー氏と共演している縁で、来ていたのであろう。私にとっては本当に久しぶりであった。
さらに、この演奏会の司会進行を務めた、オレスツさんと初めて言葉を交わした。彼とは実に様々な場所で(といっても演奏会場ばかりだが)顔を合わせる機会があり、私が去年出演した番組は、彼が司会を務める会もあるので、話す機会がない方が不思議なくらいであったが、終演後、ロビーに下りて行く途中で彼が目にとまったので、声をかけてみたら彼もすぐ気付いてくれた。「初めまして、って言った方がいいんですかねえ」お互い笑いが込み上げてきた。「どうなんでしょうねえ、ふふふ」
私はプロの音楽家でも何でもないが、この国の音楽界とはこれからも密接な関係を保っていくのだろうな、と改めて思ったひと時であった。